<助動詞の学び方>
助動詞は古文解釈の要だ―助動詞を完全理解するための考え方と学び方―

■解釈にやさしい助動詞学習■
 付属語で活用のある助動詞は、常に自立語の下について、それに一定の意味を付け加える働きをします。助動詞をつける自立語は主として用言(動詞・形容詞・形容動詞)ですが、ある種の助動詞は名詞や副詞などにもつきます。
 助動詞が上の自立語に対し、ある意味を付け加えるという場合、助動詞は単に上の用言に付属するというよりも、上の用言にかかる文節まで含めた全体の叙述を助ける働きをします。
 例えば、
 吹くからに秋の草木のしをるればむべ山風をあらしといふらむ (古今集・二四九)
 〈風が吹くとすぐに、秋の草も木も萎れてしまうので、なるほどそれで(比叡の)山から吹きおろす風を、「嵐(荒らし)」というのだろう。〉
という場合の助動詞「らむ」は、ひとまず「いふ」という用言に付属して「いふらむ」という文節を作っています。その上で「山風が吹き始めるころになるといっせいに草木が萎れてしまう」という上の叙述全体を、「(だから)山風をあらしというのだろう」と「推量」という立場から表現していることを示しています。
 代表的な助動詞は二十八語あり、それぞれが意味を持ち、また活用します。助動詞の学習では、この「意味」「活用」、そして「接続」の三点を理解することが大切ですが、中でも重要なのが「意味」になります。
■助動詞の接続■
◎接続による助動詞の分類
@未然形につく
→る・らる・す・さす・しむ・ず・む・むず・まし・じ・まほし・り(サ変動詞の未然形に)
A連用形につく
→き・けり・つ・ぬ・たり(完了)・けむ・たし
B終止形につく(ラ変型活用語には連体形につく)
→らむ・べし・らし・めり・まじ・なり(伝聞・推定)
C連体形につく →なり(断定)・ごとし
D已然形につく →り(四段動詞の已然形につく)
Eその他(体言・助詞・副詞)につく
→なり(断定)・たり(断定)・ごとし

 多くの助動詞の接続は、「動詞+助動詞」の形から帰納的に導けます。例えば、「む」「けり」の場合。わかりやすい四段動詞「行く」につけてみると、次のようになります。
「行く+む」  →「行かむ」
「行く+けり」 →「行きけり」
したがって、「む」は未然形接続、「けり」は連用形接続であることがわかります。
 しかし、助動詞の中には一筋縄ではいかないものもあります。例えば「べし」ですが、この「べし」を先ほどと同じように「行く」につけてみると、
「行く+べし」 →「行くべし」
となります。四段動詞「行く」は終止形と連体形が同じ形ですから、さあ、どちらだろうということになります。理論的には終止形と連体形の異なる二段活用の動詞や変格活用の動詞つけてみればよいことになります。そこで、下二段動詞とナ変動詞につけてみると、
下二段「超ゆ+べし」 →「超ゆべし」
ナ変「死ぬ+べし」  →「死ぬべし」
となって、「べし」は終止形接続であることがわかります。ところが、さらにラ変動詞「あり」につけてみると、
ラ変「あり+べし」 →「あるべし」
となります。「ある」は「あり」の終止形ではなく、連体形なのですから、さあ、困りました。
 実は、「べし」は活用語の終止形に接続するのですが、ラ変形活用語の場合には連体形に接続する助動詞なのです。
 このような、検出しにくい、くせのある助動詞「べし」「らむ」「めり」「らし」「まじ」「なり」(伝聞・推定)・「り」などの接続は、理屈抜きで覚えてしまいましょう。
■助動詞の活用■
◎活用の型による助動詞の分類
@四段型 →む・らむ・けむ
A下二段型 →る・らる・す・さす・しむ・つ
Bナ変型 →ぬ
Cラ変型 →けり・たり(完了)・り・めり・なり(伝聞・推定)
Dサ変型 →むず
E形容詞型
ク活用型 →べし・たし・ごとし
シク活用型 →まじ・まほし
F形容動詞型
ナリ活用型 →なり(断定)
タリ活用型 →たり(断定)
G特殊型 →ず・き・まし
H無変化型 →らし・じ
 無変化型の「らし」「じ」は語形の変化がなく、一見活用しないかのように見えます。しかし、係り結びの「結び」や連体法などの用法がありますから、終止形のほかに連体形・已然形が立てられています。

 右の分類では、助動詞の活用のパターンを九つに分類してあります。しかし、四段型の「む」「らむ」「けむ」の三つは不完全な活用型でもありますから、特殊型としてもよいでしょう。また、ラ変型は形容動詞型とよく似ているのでどちらかに統一してもかまいませんし、無変化型の「らし」「じ」も、特殊型に含めてしまってもよいでしょう。
 古典語の助動詞は数も多く、それぞれが活用するから覚えるのが大変だとして、このあたりから文法嫌いになるケースが増えてきます。しかし、助動詞の中には用言(動詞・形容詞・形容動詞)と同じ型の活用をするものが多いので、まず用言の活用から類推するようにすると、これまで学習してきたことの応用でオーケーだとわかります。
 例えば、「る」「らる」「す」「さす」「しむ」の活用ならば、
「行く+る・す・しむ」
の形で、未然形から終止形までを調べます。
「る」  → 行かれズ・行かれタリ・行かる
「す」  → 行かせズ・行かせタリ・行かす
「しむ」 → 行かしめズ・行かしめタリ・行かしむ
これらの活用語尾に当たるところをみると、
「る」  → れ・れ・る
「す」  → せ・せ・す
「しむ」 → め・め・む
となり、いずれも下二段型の活用であることがわかります。
 「らる」「さす」は「ら+る」「さ+す」ですから、「る」「す」の活用から類推できます。
 「り」および「り」を含む助動詞「けり」「たり」「めり」「なり」の場合は、「り」のつくラ変動詞の活用、もしくは形容動詞の活用語尾から類推できますし、完了の助動詞「ぬ」もナ変動詞の活用語尾から類推できます。
 しかし、完了の助動詞「り」「たり」ならばラ変動詞の活用語尾と一致しますが、「けり」の場合は連用形と命令形がないのでは、という疑問が生じるかもしれませんね。そのとおりなのですが、助動詞の活用を完璧に丸暗記する必要はないのです。仮に、連用形に「けり」が、命令形に「けれ」があると思ったとしても、古文読解に、なんら大きな支障はありません。
 同じように、「べし」「たし」「まほし」「まじ」などは、用言の活用語尾に当たる「し」「じ」に着眼して形容詞の活用から類推できます。
 ところが、助動詞の中には活用が類推しにくい助動詞もあります。すなわち、四段型活用の「む」「らむ」「けむ」と特殊型・無変化型の「き」「まし」「らし」「ず」「じ」です。これらの助動詞は少数ですからグルーピングし、理屈抜きで記憶してしまいます。
■助動詞の意味■
◎助動詞の意味による分類
@自発・可能・受身・尊敬 →る・らる
A使役・尊敬 →す・さす・しむ
B打消 →ず
C過去 →き・けり
D完了 →つ・ぬ・たり・り
E推量 →む・むず・らむ・けむ・べし・らし・めり・まし
F伝聞・推定 →なり
G打消推量 →じ・まじ
H断定 →なり・たり
I願望 →まほし・たし
J比況 →ごとし

 助動詞の意味の学習では、それぞれの助動詞が自立語やその他の上接語にどのような意味を添える働きをしているのかを把握しましょう。その上で、そこから派生する意味の有機的なつながりを理解するようにします。例えば、「風吹く」という文に、推量の助動詞の「む」「らむ」をつけると、
「風吹かむ」 →「風が吹くだろう」
「風吹くらむ」 →「今ごろは風が吹いているだろう」
となって、その意味は大きく異なります。すなわち、同じ推量の助動詞でも「む」は「そのうち春風が吹くだろう」と、未来の状態を予測するのに使われているのですが、「らむ」の場合は「はっきりと目にはみえないが、今ごろは風が吹いているだろう」と現在の状態について推量するのに用いられているのです。
 このように古文では、その場面・状況に応じて助動詞を使い分け、微妙な意味の違いを言い表しているのです。

    

皆藤俊司/著 出典:古文攻略 助動詞がわかれば古文は読める!

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