<万葉集と新元号(令和)>

■「令和」の出典■
 2019年4月1日、新元号が「令和」に決まったと発表されました。すでに様々な報道がなされていますが、万葉集巻5に「梅花の歌」32首が収められており、その「序」が典拠になったとのことです。
 「梅花の歌」は、大伴旅人が大宰帥(太宰府の長官)をやっていたときに自邸で宴会を開き、梅見をしながら皆で詠みあった歌を集めたもので、この「序」も旅人が書いています。
■本書で取り上げた歌■
 当然のことながら旅人自身の歌も収められています。それが本書『解説と鑑賞 書で味わう万葉百歌』122・123頁で取り上げた
 わが園(その)に 梅の花散る ひさかたの 天(あめ)より雪の 流れ来るかも
です。
 著者の針原孝之氏は次のようにこの歌を解説しています。
「天平二(七三〇)年正月一三日、大伴旅人が館に大宰府管下の官僚を集めて、梅花の下で宴を催した時の歌である。異国情緒をたたえる植物を囲み、異国の習慣に倣っての宴は、海外の玄関口に当たる大宰府にはふさわしい集いであったという。(中略)落花を落雪に見立てるのは漢詩に多く、『懐風藻』旅人作にも「梅雪残岸に乱れ、煙霞早春に接く」とある。しかし、「見立て」が和歌の修辞法として一般的に用いられるのは『古今和歌集』になってからである。「雪の流れ来る」も、「流風・流露・流雪」などの漢詩句の応用である。」
■福島氏による作品化■
 この歌を仮名書家の第一人者である福島一浩氏はこのような作品に仕立て上げました。

大伴旅人

 福島氏はこれに次のような作品解説を施しています。
「各行の 文字群の数を少なくして、字幅の大小に大きな差をつけてみました。第二行の「方の」に密度感を与え、周囲に疎を配して求心力をもたせています。そのため、大きな二つの余白は、一層の広がりをもっています。脈々と降下する行の中で、しなやかな心身の働きが豊かな文字の表情を創出します。第一行の右回転と、第二行の左回転、第二行と第三行の寄り添う姿を考慮しました。」
 本書で、新元号の典拠ともなった日本文化の原点とも言える万葉集の世界を、美しい書の作品とともにじっくりと味わってみてはいかがでしょうか。
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